名曲紀行 vol.29 A.ジョイス《秋の夢》
こんばんは。本日も、名曲紀行のお時間です。
今夜は、イギリス。A.ジョイス作曲《秋の夢》をお届けします。
ジョイスは、知る人ぞ知るイギリスのワルツ王。
「イギリスのワルトトイフェル」「まともなワルツを書く初めての英国人」と称されました。どれだけいいワルツがそれまでなかったんでしょうかね。
ちなみにワルトトイフェルは《スケータースワルツ》などで知られるフランスのダンス音楽作曲家です。まぁ、それはそれとして。
冒頭から胸に沁みるようなメロディーで、曲は幕を開けます。まるで映画音楽のような趣。スケールが大きく、秋独特の哀愁を漂わせ、イギリスの、フランスとはまた違った趣でのしゃれた雰囲気を余さず伝えてくれる曲だと思います。
ちなみに、かの豪華客船タイタニック号が沈没するときに、そんな状況下でも楽団が演奏し続けた曲なんです。ほかの曲、という説もありますが、この曲が有力です。
というのも、ジョイスが船上のバンドマスターだったウォレス・ハートリーと友人で、ハートリーは様々なプログラムで曲を演奏していましたが、その最後にはほとんど必ずと言っていいほどこの《秋の夢》を演奏していたそうです。
なぜ今日この曲なのか。お分かりになった方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。
そう、ちょうど今から110年前(4/14夜~4/15朝)、タイタニック号が沈没したのです。
イギリスのサウサンプトンを出たタイタニック号。ニューヨークへ向かう途中、氷山に気付くのが遅れた船は、ものすごい勢いで氷山に突っ込んでしまいます。
ハートリーをはじめとしたバンドのメンバーは皆亡くなってしまいましたが、彼らは最期の瞬間まで、この《秋の夢》を演奏しながら、海の底へと沈んでゆきました。
オーケストラの面々、特にハートリーは、どんな気持ちで盟友の書いた美しい曲を奏でたのでしょうか。そんなことにも思いを馳せて、聴いていただければと思います。
1997年の映画『タイタニック』でも、最後まで演奏を続けるシーンがありますが、そこで流れる曲は讃美歌「主よ御許に近づかん」。
けれど、実際のところは讃美歌ではなく、この無二の友人が作った名曲《秋の夢》というのも、なかなか色々感じるところ・考えるところがあるのではないでしょうか。
タイタニックが沈む、その最期の瞬間まで、名曲は盟友と共に。