名曲紀行 vol.14 カスキ《夜の海辺にて》
こんばんは。Raindropです。
本日も名曲紀行のお時間です。
今夜は、フィンランド。カスキ作曲《夜の海辺にて》をお届けします。
フィンランドといえばシベリウスじゃないの?と言いたい気持ちもよくわかりますが、それだけではやっぱりもったいない。ぜひ、カスキの作品も味わっていただきたいものです。
カスキは、シベリウスのもとで学んだ作曲家で、奇しくもシベリウスが亡くなったまったく同じ日に旅立っています。シベリウスが大規模な国葬で送られる傍らで、ひっそりと息を引き取りました。
どうしてもシベリウスの存在が大きすぎて、彼の陰に隠れてしまいがちなカスキ。
存命中も長い間無名の作曲家であり、生計を立てるために作曲の他に、ヘルシンキの音楽学校の先生をやって暮らしました。1926年から37年まではピアノ、28年から50年までは歌をそれぞれ教えたそうです。
そんなカスキの性格は繊細そのもの。晩年には「自分の生涯も終わりに近づいたいま、いやでも自分の舞台は終り、心は好んで憂愁の歌を、言葉なき秋の調べをかなでてしまうのに気づかざるを得ない。」なんて書いています。
けれど、フィンランドの人々は、こまやかな魅力を放つカスキの音楽を無視したりなどしませんでした。
死去する二年前、カスキ70歳の誕生日には、ヘルシンキでカスキが作ったオーケストラ&歌曲作品の演奏会が開かれます。会場はカスキを慕う人々で満員。比較的目立たない生涯を送ってきた老作曲家は、ここに至って音楽を愛するフィンランドの人々から暖かい拍手をもらったそうです。
更に、シベリウス90歳の誕生日には、フィンランド作曲家協会からカスキへ名誉賞が贈られました。シベリウスを師と仰ぎ、フィンランドの風、緑、光、水をこよなく愛した音楽家にとってはこの上ない喜びだったでしょう。
この作曲家はピアニスト舘野泉さんが紹介したことで知られるようになりまして、カスキの音楽が放つ透き通った光を
「低く静かに射し込んできて万象を透明にみせてしまう北欧独特の光」
と評しました。
ぼくの余計な解説などいらないほど、カスキの魅力が凝縮された言葉だと思います。
冷たい空気の夜の下、静かに寄せる波を眺める。そんないわば「海辺の静夜思」を、しんみりと味わっていただけたらな、と思います。
演奏は、舘野泉さん。