名曲紀行 vol.20 ブルグミュラー《18の性格的な練習曲》
おはようございます。Raindropです。
本日も名曲紀行のお時間です。
今朝は、ドイツ。ブルグミュラー作曲《18の性格的な練習曲》より14~18番です。
あれ、ブルグミュラーかよ、と思った方もいらっしゃるかもしれません。
ピアノを習ったことのある多くの人は、《25の練習曲》を始めのころにやって、それきりだからです。アラベスクとか、貴婦人の乗馬とか。それも素敵でしょう。けれど、どこかでもうとっくに過ぎ去った単なる練習曲、と思っていないでしょうか。
しかし、ブルグミュラーを侮るなかれ。今回ご紹介する《18の練習曲》は、それほど有名にはなりませんでしたが、より一層の音楽性を要求される曲集ですし、内容も《25の練習曲》と遜色ないくらい、事によってはそれ以上に充実しています。
さて、とはいえ、まずは教育者としてのブルグミュラーに触れておかなければならないでしょう。
ドイツのレーゲンスブルクに生まれた彼は、生涯でピアノ学習用の教本を合計三冊作っています。
おなじみ《25の練習曲》(Op.100)、《12の旋律的で華麗なる練習曲》(Op.105)、そして今回取り上げる《18の性格的な練習曲》(Op.109)です。
練習曲というと、なんだか機械的でつまらない印象があるかもしれません。
例えば——これを例に出すと怒られてしまうかもしれませんが——ツェルニーの《30番練習曲》などは、あまり面白いとは言えないのではないか。
あとは、サティが揶揄した(これもそのうちご紹介できれば……)クレメンティとか。
面白い音楽とは何か、という問題はありますが、聴いて楽しく、弾いて楽しいものを仮に「面白い音楽」だとすると、ツェルニーやクレメンティの練習曲は、さほど面白くない……というのが、個人的な感想です。
あ、もちろん、リストやショパンの《練習曲》は別ですよ?
そこへ来ると、ブルグミュラーは別格です。
まずタイトルが、弾く人の興味をそそります。ピアノは何歳から始めてもよいものですが、練習に飽きやすい子供たちでも、色とりどりの情景が浮かぶような、楽しいタイトルがつけられた曲というので、まず素晴らしい。(ただ、このうち《12の旋律的で華麗なる練習曲》には曲ごとに絵画的なタイトルはつけられていませんが、それを補って余りある内容を持っています)
それだけでなく、彼が作曲した三つの練習曲集は、内容的にもとても充実しているのです。
要するに、単に技術があるだけでは、きちんとした曲にならないのがミソ。
〈舟歌〉(25の練習曲)、〈ゴンドリエの歌〉(18の性格的な練習曲)の二つは、音楽の一様式「舟歌」ですが、ヴェニスのゴンドリエの情景、水の音や色、舟が渡ってゆく川の空気感など、曲にまつわるいろいろな要素をじゅうぶんに想像して、表現するのが大切になってきます。
特によく言われる「歌う」ことができないと、つまらない曲になってしまうのが怖いところです。
そんなブルグミュラーの一筋縄ではいかぬ《練習曲》。
聴いたことがない方も、遠い昔に練習したまま、楽譜が本棚の奥に眠っている方も、この機会にと思って聴いてみましょう!
なんなら、弾きなおしてみると、思わぬ発見があると思いますよ。
本日お聴きいただくのは、記事のタイトル通り《18の性格的な練習曲》から、14番〈ゴンドリエの歌〉、15番〈シルフィード(風の精)〉、16番〈別れ〉、17番〈行進曲〉、18番〈紡ぎ歌〉。五曲続けてお届けします。
特に14番は、ヴェニスの船頭さんがリフレインを口ずさみながら通り過ぎ、澪を引いて霞む運河のはるか向こうへ遠ざかってゆく、そんな情景の浮かぶ曲で、ぼくの一番のお気に入りです。
演奏は、私がブルグミュラーを再発見するきっかけとなった、永井充さん。
日本で一番ブルグミュラーを色彩豊かに歌われる方だと思います。