名曲紀行 vol.21 シンディング《6つの小品》より〈春のささやき〉
おはようございます。Raindropです。
本日も名曲紀行のお時間です。
今朝は、ノルウェー。シンディング作曲《6つの小品》より〈春のささやき〉をお届けします。
シンディングは、かのグリーグ亡き後にその後継者とされた作曲家で、作風の上ではドイツロマン派の影響を強く受けました。事実40年近い年月をドイツで過ごしており、故国ノルウェーの音楽界よりも、むしろドイツの音楽界と深いつながりがありました。
そんなシンディングは、それはもう生粋のワグネリアン。ワーグナー大好きな人、ということですね。そのうちワーグナーについても扱えたらと思いますが、作曲の技法や作風のうえでも、ずいぶんワーグナーの影響が入っています。
彼にとって不運だったのは、ちょうど人生の最後に差し掛かった時期に、ナチス・ドイツが活発化してしまったことでした。
ドイツやアーリア人といったものについて歪んだ信仰をもっていたナチス・ドイツは、音楽の分野でも、ワーグナーに続いてシンディングにも目を付けます。結果、シンディングの音楽までもがプロパガンダに利用され、戦後はその罪を負う形で作品のほとんどが演奏されなくなってしまったのです。
馬鹿な話だと思いませんか?
なんだか昔の話のようで、その実最近も似たようなことがありましたが……(とはいえ、現在チャイコフスキー《1812年》のようなロシアの戦争を礼賛するような作品は自粛してしかるべきかと思いますが、シンディングには戦争やナチス・ドイツを礼賛した作品はありません)
それでも、その強烈な魅力によって、いかに戦後 “枢軸国的なもの” に対する攻撃をあちこちに仕掛けた連合国といえども、ついに表舞台から抹消することができなかったのが、この《春のささやき》なのです。
北欧の春というのは、我々の感覚以上に喜びに満ちたもののようです。
長く厳しい冬を越え、ようやく暖かな光を目にした喜び。ふとした瞬間に、雪の合間に木の芽を見つけた喜び。
そんな希望の春の息吹が美しく歌われた至高の小品です。
聴いてみるといかにも難しそうですが、実は演奏はそこまで困難ではありません。同じ音型が繰り返し登場し、それが移調・交錯する形で曲のほとんどが構成されているので、ひとつの形を手になじませてしまえば、案外弾けるのです。
しかし、ひとつだけ注意してほしいことがあります。
この曲は、agitato(激しく)の指示がありますが、始終激しい曲というわけではないのです。
どちらかといえば、春の、ほとんどむせるくらいの生命の躍動、喜びに包まれた季節の色彩豊かな情景をたっぷりと歌う曲なのです。
旋律は、やさしく、なめらかに。ノルウェーのおだやかな春に、思いを馳せてみましょう。
音源はかなり迷いましたが、今日は二つご紹介。
一つはピアノ・ソロバージョン。同郷のピアニスト、クヌート・エリック・イェンセンの演奏です。
もう一つは、オーケストラとピアノのバージョン。ハリウッド・ボウル交響楽団とレナード・ペナリオのピアノでお楽しみください。