名曲紀行 vol.5 レヴィツキ《魅せられた妖精》
おはようございます、Raindropです。
本日も名曲紀行のお時間です。
今朝は、ウクライナ。レヴィツキ作曲《魅せられた妖精》です。
ウクライナ情勢、大変なことになってしまいました。
このご時世にもなって大国が他国に侵略戦争を仕掛ける様を見ることになるとは思いもしませんでした。
やはりロシアはソヴィエトなのでしょう。いまだに。
そして、最も気を付けなければならない存在は、この機に乗じて日本も戦争を、とか、中国もすぐに攻めてくるから先制攻撃を、などと言い出す国内の人々です。
悪質な流言飛語に騙されることなく、冷静に正しい情報を見極め、ただ一心に平和を求め続けて行動することが大切なのではないでしょうか。
本日は、そんなウクライナに思いを馳せ、クレメンチュクで生まれたミッシャ・レヴィツキの、とても美しい曲を味わいましょう。
レヴィツキの活躍は、主にはピアニストとしてのものでした。その技術と表現力はすさまじいものであったようで、スタインウェイのピアニストランキングでAランクに入る腕前だったようです。
この《魅せられた妖精》はレヴィツキの代表作とも言うべき曲で、いかにもコンポーザー・ピアニストといった技巧が存分に駆使され、かつ普通のピアノ学習者でも手は届く難易度にうまく作られています。そして何より、美しい。
実はこの曲、2017年に上野の森美術館などで開催された『「怖い絵」展』において、音声ガイドのBGMとして用いられた曲でした。
絵のタイトルは、チャールズ・シムズ作『そして妖精たちは服をもって逃げた』。
イングランドのリーズ美術館に所蔵されている作品で、時に“妖精画家”に分類されるシムズが描いた、いかにもイギリス的な絵です。ちょうどそのころ、イギリスでは産業革命の反動で妖精ブームが巻き起こっていたとか。その流れの中で描かれた作品と言ってよいでしょう。
そして、このシムズが生きたのは第一次世界大戦の時期。彼自身戦争画家として戦地に赴いただけでなく、長男が海軍に徴兵され、戦死しているのです。
つまり、この絵で描かれている「男の子の服が取られる」という場面は、そのまま長男の命が戦争によって奪われる現実になぞらえられているのです。
本当ならば遠い話、になればよかったのですが、残念なことに、とても身近な話になってしまいました。一刻も早く、不当にして野蛮極まりない侵攻が止まり、平和が回復されることを祈ります。
こんな時だからこそ、味わっていただきたいのはこの曲のおとぎ話のような美しさ。大きくAパートとBパートに分かれますが、Aパートは比較的自由な、美しい旋律。柔らかな光がふりそそぐ森で、水辺に遊ぶ妖精のような。歌のように流れます。Bパートは洒脱なワルツ。入り方がとても自然で、知らぬ間に引き込まれます。そして、基本は長調ですが、代わりばんこに顔を出す短調が哀愁をそそります。
そしてまた初めの水が滴るようなメロディーに帰って、ダイナミックな展開を見せます。ぐーっとひきこまれる、まさに魅せられる旋律のあとに、陽光のなかで水滴が跳ね、また静かな空気へと還ってゆく、そんな名曲です。