雨垂雑記

百合好きの備忘録

名曲紀行 vol.6 ヤナーチェク《草陰の小径にて》

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レオシュ・ヤナーチェク(1845~1928)

こんばんは。Raindropです。

 

本日も名曲紀行のお時間です。

 

今夜は、チェコヤナーチェク作曲《草陰の小径にて》です。今回はその中から第二曲〈散りゆく木の葉〉と第十曲〈梟は飛び去らなかった〉をご紹介します。

 

ヤナーチェクは、《新世界より》で有名なドヴォルザークと、チェコという意味では同郷ではあるのですが、その性格はかなり違います。

何より、ドヴォルザークは西のボヘミアなのに対し、ヤナーチェクは東のモラヴィアなのです。多少強引ですが、日本における関西と関東の違いを思い起こしていただければ、異質さは容易に想像できるかと思います。チェコはひとつ、ではなかったのですね。

 

そんなヤナーチェクは、モラヴィア民謡採集と研究に取り組みます。その成果が表現されている曲集です。また、作曲期間が長期に及んでいるため、ヤナーチェク自身の内的な日記のような性格をも結果として帯びている、と指摘されてもいます。

とにかく、ヤナーチェク、そしてモラヴィアの精神が詰まった魅力的な曲集と言えます。

 

音楽は純粋に音だけを楽しむのが本筋ではあるのですが、ここでは彼が暮らしたモラヴィアの村フクヴァルディにちょっと立ち寄ってみましょう。

 

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フクヴァルディ村遠景

出典:https://www.kudyznudy.cz/kam-pojedete/severni-morava-a-slezsko/beskydy-a-valassko/hulkvaldy

 

東欧の森と古城の村、とでも言うべきこの地の景色を見ると、ああ、ヤナーチェクだな、と思ってしまいます。この風景を知ったうえで《草陰の小径にて》を聴いてみると、不思議とイメージがわきやすいような気がするのです。

 

曲集を通して失意が根底に暗い運河のように流れていますが、特に〈散りゆく木の葉〉では秋の寂寥感、そして落ち葉の哀愁を心に映し、とても美しい旋律で貫かれています。

 

そして何より特筆すべきは〈梟は飛び去らなかった〉。

このタイトルの意味がすぐ分かる方は少ないのではないでしょうか。

 

これはモラヴィアの伝説によるもので、「フクロウは瀕死の人の家のそばに来る。窓辺から追い払うことができず、フクロウがとどまり続ければ、その人は死んでしまう」という言い伝えがあるのです。

 

実は、この曲が書かれる直前、もともと病弱だった娘のオルガが亡くなっています。そんな失意の中で、モラヴィアの民謡収集と民俗音楽に生涯をささげた彼の脳裏に浮かんだのがこの伝説だったのではないでしょうか。

 

ドヴォルザークと肩を並べて東欧の音楽史に燦然と輝くヤナーチェクを、ぜひ味わっていただけたらと思います。

 

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