雨垂雑記

百合好きの備忘録

【感想】『彼なんかより、私のほうがいいでしょ?』

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『彼なんかより、私のほうがいいでしょ?』

 

お久しぶりです、Raindropです。

今日は、10月8日に発売したばかりの新作『彼なんかより、私のほうがいいでしょ?』の感想を書いていきます。

 

先に言っておくと、超名作です。令和の伝説。文章100点満点、絵も100点満点。合わせて一億点!(脳がやられている人)

未読の人は今すぐ書店様へ急いでください。売り切れる前に。

 

まずは書籍情報を貼っておきますね。

www.kadokawa.co.jp

 

以下、ネタバレ注意です。ほんとうに要注意!

 

作品についてあれこれ

 

さて、本作ですが、読み終わってまず「これが令和か……」と感慨深いため息がもれました。

 

主人公の水沢鹿乃は、思いを寄せる幼馴染・堀宮音々から衝撃の告白を受けます。

 

「あたし、好きな人ができたみたい……」

*1

 

 

この時の鹿乃の心境たるや、察するに余りある。ずーっと恋焦がれてきた相手が、まず自分ではない人に寄せる恋を自分に打ち明けてきたわけですから。

 

あなうらめしや、ウェスターマーク。

 

フィンランド社会学者E.ウェスターマークは、1891年に発表した『人類婚姻史』の中で、「幼少期から一緒に育った人間には恋愛感情を抱きにくい」という仮説を披露します。もちろん反証や訂正もありますが、現在でもこの仮説は “ウェスタ―マーク効果” としてかなり支持されている法則です。

 

幼馴染の恋愛負けフラグはこんなところから通じていたんですね。

 

鹿乃がこの効果の存在を知っていたかはともかく、相当なショックを受けます。しかもその相手は生徒会長だというのです。その繊細な胸の内はぜひ本文を読んでいただきたいですが、ありとあらゆる思いが渦巻き、心をマイナスの感情に支配されてゆく様は、この小説がいかに心情を大切にしているかを伝えてくれます。

 

基本的に鹿乃は男嫌いです。男の身からしますと、全員がそうではなんだよ、とか、何もそこまで言わずとも……などなど、いろいろ思うところはありますけれど、大切なのは鹿乃がそういう考えを持っていることです。するとそれは、音々を男の“魔の手”から守らなければ、という決意へと昇華?されてゆくわけですね。

 

そして、自らの恋心と、音々を守らなければいけない使命感が行き着いた結論は……

 

「快楽NTR」でした。

 

いやもう、笑っちゃいましたよ、ここ。よくもまぁやってくれたな、と良い意味で思います。百合ジャンルの小説や漫画を手当たり次第に読んだ結果、その結論にたどり着いたわけですが、いったいどんな本を集めていたのやら。百合は百合でもいろいろありますからね。鹿乃の読書その他の好みがモロに表れていて、ちょっと面白いです。

 

さて、そんな熱烈な決意のもと、鹿乃は音々を快楽堕ちさせるため、生徒会長と付き合うときの練習と称し、あの手この手でデートに誘います。この辺のやり取りや鹿乃の奔走ぶりはぜひ本編を読んでください。いや、ここまで読んでくださっている方なら当然読んだあとですよね。失礼、失礼。

 

そのデートの内幕が、思いっていたよりずっと刺激的でした。間違っても電車の中などで読むものではありません。いや、私は読みましたけどね?

 

これもまた、百合の神髄。どちらかと言えばプラトニックな関係が描かれることが多い百合ですが、身体のつながりもまた、素敵なものです。もちろんなくても成立しますけれど、純粋なプラトニックラヴとはまた違うよさがありますよね。

 

百合えっちのよさは、まさしく女性同士であるところにあります。なんだか某小泉構文みたいで恐縮ですが、そういうものです。

 

女性は当然ながら、女性の体について男性よりもはるかに熟知しています。生理その他は言わずもがな、交わる際にもどうしたら気持ち良いのか、どうされると嫌なのか、どんな塩梅で進めてゆけばよいのか……などなど。やっぱりどうあがいても男性は異性なんですよ。もちろん異性愛も肯定されてしかるべきですし、異性であってもやり方はいろいろある。けれどそうではなくて、女性同士だからこその安心感というのか、熟知加減というのか、うまく言えませんが、本能的な安らぎと理解があるような気がしてならないんですよね。

 

もしかしたら、そんな風に感じてしまうこともまた、男であるが故の幻想なのかもしれませんが、我々が信じるべきは、百合の力。恋する女の子の力です。それは決して揺らがない。

 

そんな女性同士の営みの詳細は、もちろん既にお読みになったでしょうから、多くは語りません。けれど、濃密な尊さに溢れていた、とだけ言い添えておきます。

 

さて、この物語は、生徒会の闇が暴かれ、殴り込みにいった鹿乃が自宅で療養兼停学生活を送っている場面で終わります。エピローグでは、音々がお見舞いに来て、なんやかんや話して、最後に唇にキスをして去ってゆきます。

 

一気に書いたおかげで情緒も何もあったもんじゃないですが、何よりも驚いたのは、音々が最初から鹿乃と結ばれたいと思っていて、生徒会長が好きなどというのは一点の曇りもないウソだった、ということです。

 

改めて読み返すと、伏線の張り方が本当にうまい。音々はふわふわと流されやすいタイプの女子かと思いきや、とんでもない策士だったわけです。

 

もうね、完全にやられましたよね。堀宮音々、やはりタダモノではなかった。

 

恋する乙女の瞳は、誰に向けられていたのか。

 

それは、生徒会長でも、その他の男子でも、その他の女子でもなく、最初から鹿乃に向けられていたのです。

 

温度差で風邪をひくくらいに、計算の上にも計算を重ね、非常に綿密に計画されたのが、今回の告白事件だったわけです。恐ろしい女……!

 

「みぃんなしてあげる」という台詞など、尊くもあり、怖くもあります。

 

そして、さらにミステリアスなのが最後の台詞。

 

(結局、NTRれたのは、誰だったんだろうね……鹿乃)

*2

 

もうね、ゾクゾクしました。挿絵の表情も本当に素敵。生きててよかった、と心から思いました。

 

続巻も出てほしいですね!正式な告白はまだなわけですから、まだまだ関係が進展する余地はたくさんあります。

ぜひとも!なにとぞ!お願いします!

 

ということで、以上、『彼なんかより、私のほうがいいでしょ?』の感想でした。

令和はまだまだ百合の可能性に満ちています。私も創作やレビューを通して、百合の発展に少しでも貢献できればいいな、なんて大仰なことを考えたり……なんて。

 

ではでは、Raindropでした。

*1:アサクラ ネル『彼なんかより、私のほうがいいでしょ?』株式会社KADOKAWA、2021、p.10

*2:アサクラ ネル『彼なんかより、私のほうがいいでしょ?』株式会社KADOKAWA、2021、p.240