雨垂雑記

百合好きの備忘録

名曲紀行 vol.8 シベリウス《5つの小品》より〈もみの木〉

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ジャン・シベリウス(1865~1957)

おはようございます、Raindropです。

 

本日も名曲紀行のお時間です。

 

今朝は、フィンランドシベリウス作曲《5つの小品》より〈もみの木〉をお届けします。

 

本来別の曲を投稿しようと思っておりましたが、昨今の情勢を鑑み、あえて今この作品を選びました。

 

シベリウスは、フィンランド第二の国家とも称される《フィンランディア》の作者として知られ、祖国では国民的作曲家とたたえられています。

 

1914年、折しも第一次世界大戦が勃発した年、既に都会を離れ、森と湖に囲まれたヤルヴェンパーの別荘 “アイノラ” に移り住んでいたシベリウス。この年彼は通称「樹の組曲」と呼ばれる《5つの小品》を発表します。

 

ピヒラヤの花咲くとき〉〈さびしい松の木〉〈ポプラ〉〈白樺の木〉、そしてこの〈もみの木〉。いずれもフィンランドで親しまれている、優しい樹々たちです。

 

特にもみの木は、フィンランドでは永遠の生命の象徴とされます。その起源は古代ゲルマン人たちの時代までさかのぼり、厳しい冬の中でも常緑であったことが信仰の対象にすらなったようです。

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もみの木(森林・林業学習館様HPより)

そんなもみの木は、独立に燃える国民を勇気づけました。

当時のフィンランドロシア帝国支配下ロシア帝国によってロシア語の強制もなされ、政治的にも文化的にもフィンランドの人々はアイデンティティを抑圧された状態にあったのです。

 

それでもフィンランドの人々は、独立への希望を失いませんでした。シベリウスが作曲した《フィンランディア》も、ロシアの規制をかいくぐり、あの手この手で上演・演奏され、当時ヨーロッパ全体で高まっていたナショナリズムを背景に、独立への模索が続きます。

 

そうした情勢下、冬は極寒の地となるこの国で、春夏秋冬いつでも緑を絶やさないもみの木は、フィンランドの人々の勇気と誇りだったのです。

 

そのため、1917年には独立を記念してヘルシンキ市内の公園に植えられたといいます。

 

やがて訪れた栄光ある未来を予知するように、いや、もしかしたら強い願いと祈りを込めて、第一次世界大戦のさなか、シベリウスはこの曲を書きました。

史上初の総力戦となった悲惨な大戦の勃発直後。暗い影が世の中を支配する時代、彼はこの曲の向こうに、どんな希望を見出したのでしょうか。

 

冬の吹雪が森を覆うなか、冷たい雪と激しい風に耐えながら凛として立つもみの木。

白と緑のコントラストが、そしてその向こうの、もしかしたら火の燃えるシベリウスの家の暖かな暖炉が、浮かび上がってきませんか。

 

シベリウスの愛した景色、そして北欧の情緒を鮮やかに、穏やかに、ときに力強くよみがえらせる、舘野泉さんの演奏でお楽しみください。

 

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